夜、ネズミが帰ってこなかった。
 だからとりあえずひとりでスープを啜って、シャワーを浴びて、ベッドに潜りこんだ。

 今日は舞台が夜からなのだと言っていた。
 部屋の主がいない部屋というのはなぜだかいつもより広く、これだけ本棚に囲まれて
いるというのにしかし閑散として紫苑の目には映った。

 ネズミがいない夜はこれが初めてだった。
 NO.6のひとりで過ごす寝心地のいいベッドよりも、粗末だが目覚めた時隣に体温を
感じるベッドのほうが紫苑は好きだった。というより、もうそれでなければならなかった。


 自分でも呆れるくらい依存していると思う。
 広いベッドでころりと寝返りを打つ。触れるはずの存在がない。
 ひとりの夜は案外寂しいものだったのだと、聖都市の中では知り得なかったことを今
またひとつ紫苑は理解した。

 居心地の悪さに眠れないまま時間が過ぎていく。まだ帰ってこない。もうとっくに日付も
変わっていた。


 紫苑がうとうととし始めた頃、微かな音をたててドアが開いた。
 そろりと黒い影…、シルエットだけでもわかる、ネズミが入ってくる。

 …帰ってきた。

「あ…おかえり」

 口を開く。声が少し掠れていた。ネズミが一瞬だけ驚いた顔になる。
 紫苑はこの不意をつかれたような、予想外なことに驚くネズミの顔が好きだった。
めったに拝めない上、拝めたとしてもほんの一瞬であるから尚更。

「…あんた、まだ起きてたのか。静かに入ってきて損した」
「うん。おかえり、を言おうと思った」

 ネズミはまた驚いたような、呆れも入り混じったような顔をした。
 …一瞬が先程よりも少し長かった。

「それだけか?」
「うん」
「…あんたは本当に天然で誘い上手だな。どこで覚えた」
「え?」

 猫のようにしなやかな動きでベッドの上に乗ってきたネズミの顔が間近に近づいたかと
思うと、唇をぺろりと軽く舐められた。
 突然の柔らかくあたたかな感触に紫苑は驚く。
 その間に移動した唇が今度は耳朶に触れたかと思えば甘く噛まれる。

「…ッ」

 咄嗟のことで殺しきれなかった吐息が紫苑の唇から漏れた。

「ちょっと、ネズミ、ぼくは別にそういうつもりじゃ」

 整った顔を押しのける。押しのけられてなおネズミは面白そうに笑っていた。

「でも、嫌じゃないだろう? それに、火をつけたのはあんただ」
「それは」
「あんまり可愛いことをしてくれるなよ、紫苑」

 シャツのボタンに手がかかる。綺麗な指が優雅にひとつひとつ外し、肌が外気に
晒された。
 ここまでくるとネズミがもう止められないのを紫苑は知っていた。

「どうせ眠れない夜なんだ、なら無理に眠る必要もない」

 耳に吹きこまれる、脳に直接響いてくるような囁き。
 何よりも紫苑を惹きつけてやまない目の前のその不敵な笑みが。

「途中で寝るなよ」
「まさか」

 答えておきながら、朝まで起きていられる自信などなかったけれど。

 髪に触れてくる乾いた手を心地良く感じながら、


 今後は帰ってこない日などないといい。


 ふと、そんなことを考えた。





すいませんえろす寸止め…!(汗)
えろすまでさわやかに突入するはずだったんですがまあえろすはまたの機会にということで。
えろす寸止めのかわりにわたし的萌えがまたふんだんに盛りこまれています…おかしいなあ
ウチのネズミはどうしてこんなに毎度えろ魔人なんだろう…!




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