「きみの誕生日って、いつなんだ?」

夕食の席で紫苑はささやかな疑問を口にした。
テーブルを挟んで、かちかちに固まってしまった干し芋をかじりながら互いの顔を見つめあう。
またおかしなことを言い出した、とネズミは怪訝そうな顔をするだろうか。
紫苑の思ったとおり、ネズミは訝しげに訊き返してきた。

「なにかと思えば。そんなこと、知ってどうする気だ」
「別に、どうするってこともないけど。ただ、知らないなあと思ったんだ」
「それならあんた、おれの本名だって知らないくせに」
「ああ。そういえばそうだね」

言って、紫苑は苦笑いを浮かべた。
今まで暮らしてきた中で知ったネズミに関することといえば、大体の性格、少々の食べ物の好み。
料理はうまいが(しかしスープ以外は食べたことがない)、寝相は最悪。その程度だった。
不自由がないから気にしていないし問い詰めてもいないが本名もいまだに知らない。
本名すら知らないのにいきなり誕生日、というのも妙な話だが純粋に知りたかった。
いや、ネズミのことなら紫苑はなんでも知りたいと思う。
自分を惹きつけてやまない彼のことなら紫苑はいっそ頭の上から足の先まで知っておきたいくらいに、
紫苑はネズミを求めていた。

「なんだってそんなことを知りたがるかねえ。たかが他人の生まれた日だろう。別に知ったところで
何にもならない」

そうして固い芋を何とか白湯で流しこんで、空腹はほとんど満たされていなかったが今日の夕食を終える。
子ネズミが紫苑の肩に素早く登り、鼻をひくつかせて「チチッ」と可愛らしく鳴いた。

「うん、きみにとってはそうかもしれない。でも、ぼくにとっては結構大切なことだから、知って
おきたいなと思ったんだ」
「物好きだな」
「やっぱり誕生日っていうのは特別な日だから。きみが生まれて、きみがここに生きているって事実を
確かめたい」
「なんだ、おれがこうしてあんたの前にいるってだけじゃ不満なのか?」
「不満じゃ、ないけど」
「充分だろ。見て、触れて、話せる以外にあと何がいる」
「……いらないな」
「だろう?」

つい頷いてしまったけれど。
……なんだか丸めこまれた気がするのは気のせいだろうか?

「そんなに知りたいなら、そのうち名前と一緒にでも教えてやるよ。とりあえず今はこいつらに本でも
読んでやれ。陛下の朗読をご所望のようだ」

はなから教える気などないだろうに、そんなとりとめのない口約束をしてネズミはバスルームへと
消えた。少し経って、シャワーの水音が聞こえ始める。
チチチッ、と耳元で声がして、肩に乗った子ネズミの葡萄色の大きな目が紫苑を正面から見つめた。
テーブルから立って、ベッドに腰掛けると3匹の子ネズミが走りよってきて肩や膝の上に乗る。

「今日も悲劇でいいの?」

3匹の頭を撫でてやり、そう尋ねながら紫苑は傍らに置かれた『ハムレット』を手に取った。





どうもわたしはこのくらいの短さの話が書きやすいみたいです(苦笑)
うーん、一度でいいから攻め攻めしい紫苑を書いてみたい…!



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