知らなくて知りたくて知ろうとして、この目で確かめようとした。
 けれど自分はいつも目を背けるか伏せるかしていてそれを確かめることができなかった。
 何事にも対等でありたい、それが紫苑の求めるネズミとの関係だ。
 ネズミの知らない部分すべてに紫苑は触れたかった。

 部屋の真ん中に置かれたストーブがちりりと乾いた音をたてた。
 ベッドの上で仰向けになる紫苑の身体にネズミの身体が覆い被さり、紫苑が身に着けて
いる白いシャツのボタンをひとつひとつ、もどかしいほどゆっくりとした動作で外していく。
やがてボタンをすべて外し終えると、普段は首の部分しか見えていない、白い肌の上を
蛇行する紅い蛇が姿をあらわした。

「ん、ッ」

 肌蹴たシャツの間から入りこんだつめたい、長い細い指が紅い蛇の上をなぞる。
 その感触に微かに声が漏れた。

「おい」
「何」
「何であんた、この状況でさっきからずっと目開けたままじっとおれのほう見てるわけ」
「そんなの、きみの表情を見ていたいからに決まってる」

 紫苑が知りたかったのは行為の最中のネズミの表情だった。いつも翻弄され流されて、
いつの間にか快楽の波にのまれてしまう自分には、行為中のネズミの表情をうかがうことは
できない。
 紫苑は性行為においても自分だけが悦いのは嫌だった。相手にも同じだけ悦くなってもらわ
ないと対等ではない。
 そこで、どうしても紫苑は自分との行為中のネズミの表情を確かめておきたかった。

「……物好きだな。なら、おれの顔見てる余裕なんかなくしてやるまでだ」

 顎を掴んで強引に口づけてきた唇から赤い舌が侵入して、敏感な口内を刺激する。くちゅ、
と濡れた音とともに一度だけ舌を強く吸われた。

「っふ、ぁ…」

 深いキスのあと、唇が銀糸をひいて離れる。
 傲慢で艶めかしい笑みを浮かべると、ネズミの手は紫苑のズボンへと伸ばされた。
 その手を紫苑の手が掴んで止める。

「いい、ぼくが自分で」
「脱がせるのも楽しみのひとつなんだ、楽しみをとりあげてくれるなよ」

 紫苑の手を退けて下着ごとズボンを取り払うと、その身体の中心に息づくそれをネズミは
そっと掌で包みこんだ。

「……っ!」

 急につめたい指に触れられて、びくりと身体が初心な反応を返してしまう。それが恥ずか
しくないといえば嘘になる。
 それでも今日は目を閉じることなく目の前のこの男を見つめ続けなければならない。目を
逸らしてもいけない。

「んぅ…っ、は…」

 敏感な場所への愛撫に、指を噛んで声を抑えながら目の前の男の印象的な瞳をじっと見据える。
 その視線に気づいてネズミはいったん愛撫を止めた。

「…紫苑。あんた、指噛むのやめろって言ってるのに。それで声を抑えようとするのはいつもの
ことだけど…今日のその、潤んだ瞳でまっすぐおれを見てくるのは煽るのにわざとやってるのか?」

「ちが…っ。きみが…きみの…っぁ!!」

 紫苑が言い終わらないうちに再度愛撫が再開される。執拗な愛撫に零れた自分の先走りが
ネズミの掌を汚しているのが濡れた音と感触で分かった。

「…きみの?」

 あまやかな声音で耳元で囁かれ、あつい吐息を吹きかけられる。愛撫している掌はこんなにも
つめたいのに、それ以外の部分はとてもあついネズミの身体が不思議だった。
 まずい。このままではまた流されてしまう。
 それならいっそ、直接当人の口から答えを聞こうと紫苑は伸ばした掌でネズミの顔を包み
こみ、弾んだ息を落ち着けてから問いかけた。

「…もう、いい。単刀直入に訊く。きみは、ぼくとのこの行為で、気持ちいいと感じているか?」
「…はぁ?」

 ネズミは面食らったような顔で自分の下の紫苑を見つめた。自然と愛撫の手も止まる。

「だから、きみもちゃんと気持ちよくなれてるのかって訊いてるんだ。じゃないと対等じゃない
だろう」
「………。あんた、さっきからおれのこと見てたのもしかしてそれを確かめようとしてた?」
「うん」
「…………馬鹿?」
「いや、少なくともある一定の分野においてはぼくのほうが頭はいいと思うけど…うゎっ!?」

 突然髪を掻き乱した手に驚いて声を上げる。普段よりも強い輝きを宿した濃い灰色の瞳が紫苑を
見下ろしていた。

「いいか、よく聞け。おれは自分もいいと思うことしかやらない。まして、何度もやることなら
なおさらだ。そのことを、よく覚えておくんだな」

 これは、つまり。

「……けっこう、気持ちいいってことか?」
「そう聞こえなかったか?」
「いや……それなら、いい。でもそれなら、少しくらい気持ちよさそうな顔してくれてもいいのに」
「そんな顔、あんたに簡単に見せてたまるかよ」
「じゃあ、今から見るさ。続けてくれ」
「見られるもんならな」

 快楽に耽るネズミの表情はさぞかし壮絶な色気を纏っていることだろう。
 そんな想像をひとたび巡らせたのち、行為を再開するためにふたたび覆い被さってきたネズミの
背を紫苑は強く強く掻き抱いた。




わー、ショートショートの記念すべき1本目がえろってどうなの自分…!(滝汗
書いてる時間がとてつもなく至福でした。えろすばんざーい(ぇ
でもわたしが書くとえろくならないんですよね…精進します…!
しかしこうしてみるとウチの紫苑はだいぶ受け受けしいですね…(苦笑


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