「すぐに済ませる」
 部屋に帰るなりネズミからそれだけ告げられて腕を引かれ、ベッドに組み伏せられた。
 木製のベッドが派手に軋んで、枕元にうずくまっていたらしいハムレットが衝撃に驚いて
積み上げられた本の隙間へと逃げこんだ。
 あまりにも突然で面食らったが不思議と少しも嫌ではなかった。ネズミがこれからしよう
としていることは、世間一般的には同性同士でするものではない。それに、紫苑は女性と
の経験もまだなかった。
 なのに、だ。

 なぜだか理屈などいらなかった。
 ただ、触れたかった。

 ネズミが超繊維布を脱ぐと、数刻前に巻いたばかりの、左肩の痛々しい包帯が目についた。
思わず手を伸ばす。肌が少し汗ばんでいた。
 四年前にもまったく同じ場所を紫苑は治療した。四年前の傷痕がまだ残っているのを、
包帯を巻く時にさりげなく確かめた。
 興奮しながら初めて縫った肩の傷、倒れてしまいそうなほど弱々しく見えたネズミの身体の
熱さ、それに、一瞬で目を奪われた不思議な眼光。忘れられるはずもない。特別すぎる十二歳
の誕生日だった。
 目に見える形で身体に残っているのはネズミの肩の傷痕だけだ。時にあいまいな記憶など
よりずっと確かなものが刻まれている。
 ネズミには悪いが、その左肩の傷痕だけは消えてほしくなかった。
「肩の傷は? 平気なのか」
 きっちりと巻かれた包帯の上からそっと肩口を撫でた手を、少し大きな手が握る。
「平気だ。それに利き腕じゃない」
鮮やかな笑みとともに額に唇が落とされた。





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