それは、月の綺麗な夜だった。

廃墟の上に人影を見つけて紫苑はここまで登ってきた。
地面にすらりと細い黒い影が伸び、その影の先には超繊維布がなびいている。
その背にそっと近寄り、声をかけた。

「何してるんだ」
「お月見でございます。陛下も一緒にどうですか」

振り返って言いながらネズミは自分の隣を指し示す。その動作さえもいちいち優美だ。
しかし、今日は機嫌がいいらしい。

頭上にはくっきりとまるい満月が強い光を放っている。まわりに散った星もひっそりと
静かに瞬いていた。

「お団子が欲しくなるな」
「団子はないが、クラッカーなら」

ネズミが意地の悪い笑みを浮かべて、懐から取り出したクラッカーの袋を振ってみせる。
中でさかさかと湿気ていないクラッカーが音を立てた。

「またイヌカシのところからぶんどってきたのか。かわいそうに」
「ここじゃ食ったもん勝ちさ」

呆れる自分をよそに、袋を破いて取り出したクラッカーを口に放る。
今頃イヌカシはかんかんに怒っているにちがいない。たまに少し気の毒になる。

見つめているとふと、強い月明かりに照らされたネズミの横顔がとても綺麗で、気づけば
思わず唇を寄せていた。自分でも少し驚くほどに衝動的にとった行動だった。

「……今夜のお誘いか?」
「まさか。きみに見惚れてただけだ」
「ほう。じゃあ今の可愛らしいキスは?」
「わからない、何となくしたくなった」
「何だそりゃ。あんた、月に惑わされでもしたか」
「そうかもしれない」

濃灰色の整った双眸をうっとりと細めると、ネズミは紫苑の手をとった。つめたい手。

「陛下からお誘いのキスなど、身に余る光栄です。お返しはベッドの上で、さ、こちらへどうぞ」

そのままふたり手を繋いで歩き出す。並んで伸びた長い影を月だけが見下ろしていた。

それはそれは、月の綺麗な夜だった。




あっま…!
おかしいな、もっとドライな関係にしようとおもってたんだけどな!
まあいいか、ふたりがいちゃこらしてればわたしはそれで十分だ(ぇ



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