おれのために泣いた奴がいた。 おれにとってはどうでもいいことでそいつは泣いた。 出会ってから初めて「ばか」と怒鳴られた。 同時に、彼が掴みかかって乱暴する意外な面も見られた。 意外な、というより本人も初めてだと言った。 目に涙を滲ませながら、零しながら彼は激昂していた。 しかもそれらすべて、ネズミの、自分のために。 ……わからない。 これはもしかしたら一生本気でわからないのかもしれない。 ネズミは心からそう思った。 「そんなに悔しかったか?」 力河の住まうビルからの帰路、ネズミは紫苑に訊いた。 星とわずかな月明かりが頼りの、廃墟と瓦礫にまみれた道をふたり並んで歩く。 少し前に泣いたせいで紫苑は目が赤くなっていた。艶やかな白髪に赤い目をして、 まるで兎みたいだとネズミは思う。 赤い目が睨みを含んで見つめてくる。 「きみはもう少し『怒る』ことを覚えたほうがいいと思う」 「じゃああんたはおれに年中怒ってろっていうのか? それこそ身がもたない」 「そうじゃない。でも、きみが侮辱されて慣れてるとか平気だとかそういうの… すごく嫌だ」 「嫌だっていわれてもな……なあ、あんたもそうやって他人のために怒ったり なんかするな」 「なぜだ」 「邪魔になる」 「え?」 紫苑が揺れる瞳を何度か瞬かせた。 踏みしめる足はゆっくりと、だが確実に家路をたどる。 「自分のことだけ考えて、自分の身だけ守ってろ。でないと、死を早める」 「それはできない」 「紫苑。今のあんたに他人を気にかける余裕はないはずだ」 「……っ」 言葉につまる。言い返せない。 「でも、嫌なんだ、きみが……っっ」 視界がぼやけて、頬を熱いものがつたった。 立ち止まる紫苑にネズミも歩みを止める。 「―ああもう、泣くな! 泣くなって、ほら」 涙を拭ってやりながら、潤んだ瞳を覗きこむ。 長い睫が濡れて雫をたたえていた。 思わず溜息が出てしまう。 「あんた、おれが思ってたよりずっとよく泣くな」 「…うるさい」 「わかった。じゃ、こうしよう」 「なにが」 「いいか、あんたがおれのために泣くのはまずはセックスの最中だけでいい」 沈黙。 わずかに顔を赤らめた紫苑は呟く。 「……あれは生理現象だ」 「泣きたくなったら、いつでもどうぞこの胸へ」 優美な仕草でネズミは紫苑の手を取り、自分の胸へと導くとうやうやしく 頭を下げた。 「なるべく遠慮しておく」 「おい、即答するなよ。傷つく」 「嘘つけ」 泣き笑いのような笑顔を浮かべてから、紫苑はごしごしと瞼をこすり顔を 上げた。 …腫れた瞼が少し、痛かった。 |
#2の3『魔と聖』その後を妄想で大捏造してみました(爆)
いかん、趣味に走りすぎた…!
わたしはドSなので受を泣かせたくて仕方ありません。本当へんたいですみません(汗)
紫苑ごめん、泣かせてごめん…。
ご、ご感想お待ちしておりま…す…(弱気
窓を閉じてお戻りください。